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Special Interview 安井健太郎(自然写真家)

[第2回]感じたことを表現すること。それを続けること

普段は家電メーカーの営業として働く安井氏は、自然写真家としての顔もある。昨今、多様な働き方が求められるなか、“写真”がライフワークであると語り、情熱を注ぎ続ける安井氏の生き方、想いに焦点を当てインタービューした。第2回は「サケ」にまつわる話とこれからについて伺った。(全2回)

profile

Kentaro Yasui

1978年、東京都生まれ。東洋工業専門学校(現・東京環境工科専門学校)にてフィールドワークの基礎を学ぶ。北海道知床にある自然トピアしれとこ管理財団(現・知床財団)にガイドとして勤務し、クマのいるフィールドで行動する技術を得る。また、知床の自然に触れるなかで生き物を撮ることの愉しさ、奥深さを感じ、自然写真家として歩み始める。2001年に初めてアラスカの地を踏み、ヘラジカを中心に撮影。2004年に現在のライフワークである「サケの旅」 の撮影を中心に取り組みはじめる。2017年4月より北海道内のサケ関連水族館施設3か所で『写真家 安井健太郎 巡回写真展 アラスカのサケたち』を開催中。

Facebook:https://www.facebook.com/pg/WildHarmonyPhotography/

心を突き動かす感情を確かめに
2度目のアラスカへ

――初めてのアラスカではヘラジカを追いかけていた。現在のようにサケを中心とした写真を撮り始めたきっかけはなんですか?

安井:アラスカから帰国した後は普段の暮らしが待っていました。ただ、アラスカで出会った人たちやヘラジカに心を奪われたこと、ヘラジカに会って写真を撮るという自分の目標を達成した旅の感動はまったく色あせなかったんです。現地で撮影に取り組んでいた時に感じていたヒリヒリするような、心をグッと突き動かされるような感情は何なのか。自分が好きなことであれば続けるべきだと思っていましたし、その感情が本物か見極めたいとも考えてアラスカに戻ろうと2度目の旅を決意しました。それに加えて、アラスカで出会った地元の人の「アラスカには外国の若者がよく来るんだよ。だけど年を取ったら来ない。若いときだけね(笑)」という言葉がすごく印象にあって、自分はずっと好きなことをやっている生き方を選びたかったし、その言葉に反発というか“好きなことを続けて、意地を見せたい”みたいな気持ちもあったんです。
 アラスカにもう一度行こうと決めましたが、まずは一番必要なお金を貯めなければならない。待遇がよくて厳しいと聞いて新聞配達の仕事を住み込みで2年近くやりました。自分の夢へのお金を貯めることもそうですが、普通に暮らすって結構大変なんですよね。苦労しながらも一生懸命働いて、好きなことを続けるためにコツコツとお金を節約して暮らしました。一番の支えは夢への強い決意とかではなくて、夢を吹いて、それで消えていくような自分を見たくなかった。いろんな誘惑の多い普通の暮らしの中ではこれが一番強かったです。半分意地みたいなものでしたね
 雑誌でグラビアを飾るようなプロが褒めているカメラ機材を調べ、カメラやレンズを揃え、旅費が貯まったのが2004年、26歳で2度目のアラスカの地を踏むことができました。

fig1 巡回写真展「アラスカのサケたち」案内
巡回写真展案内
サケの巡回写真展チラシ
(PDF 396KB)

生きることへの情熱と意志
生き生きとしたサケの表情に魅了

――2004年もヘラジカを撮りに?

安井:そうです。狙いはヘラジカでした。でもヘラジカはアメリカ国内外で人気が高く、被写体として撮り尽くされている感もありました。外国の若者がいきなり来て写真を撮っても、地元で常に撮っている人と比べて特別なものが撮れるとは思えなかったですしね。それになかなか出会えないこともあって、思っていたより大変でした。草食動物だから草が生えている所どこへでも行っちゃうんです。ですからヘラジカを追う合間で色々調べて、マウンテンゴート、ドールシープ、ビーバーなど、生息リストにある生き物を手当たり次第撮り始め、そのひとつがサケでした。
 その年の夏は気温が高く、雨もほとんど降らなくて川の水位が低かった。川で観察しているとサケたちは水量が少なくて水面から半身を出しながらに苦労して川を遡っていました。産卵行動に入ったあるオスのサケがケンカを始めたのでカメラを構えると、とても驚きました。魚同士のケンカってどんな風に想像しますか? 自分は体当たりしてドンッと体をぶつけ合うくらいだと思っていました。でもその時は違ったんです。水面から飛び出しながらぶつかり絡まり合い、ついには相手の顎の下に激しく噛みついてそのまま放さなかったんです。生き生きとした力強さに魅了され、単純に「サケってすごいな」って思いました。その時に撮れた写真(fig2)は、アラスカのどこにでもいると思っていた、サケの生きるための全力の情熱と意志がみなぎったものでした、おそらくこの時に初めてサケの魅力に気づいたんだと思います。
 当時の自分はサケの世界のことなどまったく知らなかった。帰国してから現像の終わった写真を見ると、サケについて知らないことがたくさんあるという事実と、とても魅力的な表情をした作品と呼べるようなサケの写真が残った。

fig2 サケの魅力を知るきっかけになった写真
fig2 サケの魅力を知るきっかけになった写真

 ヘラジカを撮るためにアラスカに戻った自分の旅には、思ってもいなかったサケへの感動が結果として残った。じゃあこの気持ちをもっと掘り下げてみるべきではないかと考えたんです。もっと撮って解明していけばいいんじゃないかと。それで翌2005年、3度目のアラスカに向かうことになります。それから2008年頃まではヘラジカを中心に、いろいろな生き物を撮ってきましたが、ヘラジカが水草を食べている川にサケがいたりとか、ほかの動物が水を飲んでいる側をサケが泳いでいたりとか,サケに注目してみると多くの生き物にサケが関わっていることがわかってきました。見たり、聞いたり、調べたりするなかで、自分のなかでサケに対する認識みたいなものが少しずつ色々な生き物と結びついていくことで変わっていったんじゃないかと思います。

水中で撮りたい、ならカメラハウジングを作ろう!
撮りたい瞬間を押さえるために

――どんな風に撮影しているのですか?

安井:撮り始めた頃はサケの写真は地上から撮影してました。彼らが水面から顔を出しているところを撮っていたわけです。ただ、撮っていると水中の彼らはどうなんだろうって、疑問がずっと頭にあったんです。それで、いつもの自分のパターンで「やるならとことんやってやろうぜ」ってなったんです。「よし、じゃあ、水中で撮ってみよう」と思ったんですね(笑)。それからアクリルの特注ハウジング(fig2)を作って。これは一眼レフカメラをそのまま水中に持ち込めるように密閉できるケースです。
fig3 アクリルを装備した水中カメラ(photo: Christina Sjogren)  今まで外から見ていたアラスカの川は水温が低いんです。いま撮影している場所は、冷たいところでは7℃くらいですかね。水中で撮影しているとダイビングをしていると勘違いされることも多いんですが、ほとんど川に寝そべったり、座り込んだりして撮影しています。ボンベなどの器材も増えますし、そのための機材をさらにふやしてフィールドに出るなんてとても無理ですしね。それに川でいろいろ見ていると、1、2時間で上がるなんてできない。写真ってその場に長くいるからこそ撮りたい瞬間を見つけることができるし、それを運良く写真に残すことができるんです。
 話をもどしますが、水中で初めて撮影に臨んだときのことは忘れられません(笑)。お金をかけた器材で「いざ撮影!これですごいのが撮れるはず!!」と川に入っていったんですが、最初は自分が泳いで近づいていくと想像していたんですね・・・。川の流れに乗ってプカプカと浮いていたんですが、まったく近づけない(笑)。サケもあやしいやつが来たと思ってあっという間に逃げてしまいますし、高価な機材はまるっきり発揮できず・・・。絶望的な思いでした(笑)。
 そこからは撮り方を試行錯誤しました。サケが逃げないように近づいていくためには時間を掛けて川に入っている必要があります。寒さに耐えられるようにドライスーツのインナーの上にフリースを3、4枚着込んで、カイロを付けて川に入るようにしています。私の場合、ほとんどを魚眼レンズで撮影していますので、サケを間近で撮らないとサケの表情が写らないんです。それこそ大げさに言うとサケの口と私の鼻が当たるくらいの距離です。そこまで近づくには、長く水中に留まる必要があります。ですからいまでは、じっと観察しているとサケがどんなことに気を遣うのか、怖がらせない感覚が掴めてきました。やけに突っかかってくるヤツがいたり、性格も個体差が大きいんですよ(笑)。
fig4 アクリルを装備した水中カメラ(photo: Christina Sjogren)  でもいま話したことは、サケの生き物としての表情で、ある一側面でしかないんです。ほかの動物との関係性では環境と関わり、人の文化や歴史とも関わってる。現代で見つめ直すと経済の面からもサケを捉えることができます。サケを撮るときに面白いと思う角度が多面体であるのと同様に、たくさんの魅力があると思います。だから、常に広くて柔軟な視野を持っていたいと思っています。興味をずっと持ち続けられるものって、次第に拡がるようにたくさんの物語が見つかるんです。

fig5 水中での鮮やかなベニザケの魚体
fig5 水中での鮮やかなベニザケの魚体

感じたことをかたちにすること
それを続けていきたい

――たくさんのお話、ありがとうございます。それでは最後に安井さんは今後、何を目指していかれるか聞かせてください。

安井:アラスカだけにこだわる、サケだけにこだわる、写真だけにこだわる、ということはありません。いや、写真はこだわるかも(笑)、撮り続けてはいくとは思います。昔はまったく逆の答え方をしていたと思います、歳とったのかな?(笑)。
 自分にしか表現できないものや自分が良いと感じたもの、つまり、見て・聞いて・感じたことをしっかりと受け止めて、それを自分なりに伝えることは大切だと思っています。それを続けられればいいんです。私は「何かを感じて、何かを作る」というプロセスがすごく好きなんです。

――安井さんはサケを食べることは好きなんですか?

安井:大好きです(笑)。

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